【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~
何も知らなかった俺は、夏休みに入った廉さんが、これまで以上に仕事に打ち込んでいる事を、内心嬉しく思っていた。
廉さんの誕生日にホテルで行われる一族の代表が集うパーティに彼女を呼ぶと聞いていたからだ。
廉さんの才能をここまで引き出した彼女を恋人として公に連れ出す。
それは百合子との婚約を解消し、正式に彼女を自分の婚約者と同等の地位に納めることを公言するようなものだ。
百合子を救い出すチャンスかもしれないと思っていた。
だが、廉さんに彼女の送迎を言い渡され、前夜に手渡された住所を見て愕然とした。
全身の血が凍る思いだった。
まさか、自分の実家の住所を渡されるとは…。
まさか、自分の娘が廉さんの想い人だったとは…。
その夜は自分の愚かさを呪い、一晩中眠れなかった。
せめてお前だけは一族と関わりあう事無く生きて欲しいと、ずっとそう思って生きてきたのに…。
―香織…すまない