【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~

言い終わる前に父は既に内線で指示を出していた。

瞬時に判断し行動を起こすその素早さには、自分の父親ながら舌を巻く思いだ。

こんなときの父にはいつものおちゃらけた雰囲気など微塵にも感じられない。

冷静な判断と、迅速な行動、的確な指示。一部の隙も無いほどに張り詰めた空気が父を包み、その一角だけ空気が違う。

これが家名を継ぎ、当主となるということなのだと、こんな時なのに、自分に課せられた未来の重さに心が塞ぎそうになった。


だが、落ち込んでなどいる暇は無かった。

その間にも、香織の両親は香織を追いかけようとしていたのだ。

慌ててそれを制したが娘の身を案じ興奮した父親の力は思った以上に強く、簡単に振り切られてしまった。


次々と判明した真実。

目の前で明らかに変化していった香織の心。

16年間娘として育ててきた彼女が、実の父親を求めて闇に消えた事に動揺しないほうがおかしいだろう。

だが今この闇の中に秋山氏が出たら、捜索する人間が更に増える事は目に見えていた。


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