【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~
戸惑いは消え、いつもの笑顔になった彼女にホッとして、何気ない素振りで明るく話題を切り替えた。

「そうだ、寝室を見てみる?
プールの見える中庭に面した部屋と、山側の緑がきれいな部屋とどちらがいいかな?
見てご覧よ」

「いいの?うれしい♪
実は凄く気になっていたの。
荷物も少し片付けたいし」

「ああ、そうだね。
夕食の前に片づけを済ませたほうがいいね。
どちらの寝室にも僕の服が残っているから、香織が選んだ部屋のクローゼットを空けるよ。
まずは部屋を選んでからだね」

僕の言葉が終わり切らないうちに、パアッと弾けるような笑みで嬉しそうに立ち上がると、山側の部屋の扉に手を掛け振り返る香織。

僕を信じきっている彼女は、一緒に寝室のドアを空ける事にも、全く躊躇がない。

早く早く、と手招きして僕を呼ぶ、その愛らしい仕草に思わずヘラッと頬が緩む。

凄く情けない顔をしているだろう自分を想像し、それを映す鏡がこの部屋に無かった事に感謝した。

こんなにも純粋に僕を信じている香織を、穢したり傷つけたりなんて…

やっぱりしちゃダメだよなぁ。

さっきまでの暴走を振り返り、余裕の無い自分がつくづく情けなくなった。


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