【長編】Little Kiss Magic 3~大人になるとき~
「シャーベットが溶けるよ。早く食べたほうがいい。そのシャーベットも母さんが作ったものだと思うよ」

母の自慢のブルーベリーパイに添えられた、ラズベリーのシャーベットが形を崩し、皿の上を滑り始めていた。

僕から離れていく香織を連想させる気がして、嫌な感覚を振り切ろうと、勢い良くインスタントのコーヒーにお湯を注いだ。

目だけで砂糖の有無を問いかけると、彼女はピッと指を一本立てて、それに答える。

言葉がなくても伝わる…

この感覚がとても心地よかった。

数秒前心に浮かんだ不安など、何処かに吹き飛んでしまう。

どうして、彼女に嫌われたかもしれないなんて、ほんの僅かにでも考えたりしたのだろう。

ちゃんと解っていたはずなのに。

彼女はいつだって、本当の僕を見つめてくれていた。

隠した容姿でも、頭の良さでも無い。

学校での冴えない僕でもなければ、企業家としての僕でも無い。

ただの、浅井 廉を…


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