神名くん
本棚に直すつもりで抱えていた本に一冊、気になるのを見つけたので、私は片手でそれを開きました。文庫本サイズのそれは、やはりとても読みやすいようです。
物語に入ってしまうと、私は周りを見ていられなくなる習性のようで。それは、わかっていたことなのですが、今は片付けの途中ということをもすっかり忘れてしまっていたようです。
横から、痛い視線を感じる気配を受け、私はリアルに戻りました。ちらりと視線の元に目を向けると、なんとも言い難い表情の神名くんが私を見つめていたのです。
色素の薄い灰色の色をした瞳で私の感覚をおかしくするのには時間があまり必要ないのです。私の心臓はドキドキしているのに、私の表情は理性が保ってでしょうね、変かをしないのです。
「何をしているのです、神名くん。確かに本を読んでいた私めが悪いのですが、そんなふうに見つめられてはコチラも困るというものですよ。」
私は、そう言ったのですが、神名くんは何も聞かなかったかの様に私から視線を反らしたのです。正直に頭に来ない筈がないじゃないですか。
「なんなんですかっ。私、が悪いのはわかりますが、何か言ってはどうですっ。」
そう、声を荒げて言ったからでしょう、彼はコチラを見てくすりと笑うのです。そして、
「いや。立って本を読む姿も綺麗だなって。」
その言葉は砂糖菓子の様に甘い。頬を真っ赤にした、私を神名くんはわざわざコチラに足を運びひと撫でするのです。まったくもって意地悪が過ぎる人です。
私は俯き彼から顔を逸らすことしか出来ない。いっそのこと、彼は私を襲ってしまえばいいとさえ願ってしまう。