神名くん
昔、まだ私が小学生の頃に一度だけ神名くんに質問しました。神名くんは、若いですが学生でもないことは、幼いながらも感づいていました。そんな、神名くんに、職業について尋ねたのです。
別段、疚しい気持ちなどこれっぽっちも霞めていませんでした。何せ、当時は小学生。純粋だったことは自負する程です。
そんな、彼はいつもとなんら変わらない読めない表情で確かに「神様」と言ったのです。幼いながら神様の存在がどんなものかと言うことは知らない筈もありません。
確実に眉を寄せて訝しげに見つめていたことも覚えています。彼は、軽く笑うと、ただ緩んでいる口許のまま私の頭を撫でました。
勿論、私はそんなことは信じる気はまったくもってありませんでしたが、歳を重ねていくうちに、彼の周りには死が張り付いているのがなんとなく気づくのです。
彼の書斎の机に重ねられているファイルには一枚一枚、今まで死んだ方の顔写真と詳細プロフィールがあるのを知っています。あの、黒電話が鳴った次の日にはそれが机に置かれているのです。
黒電話…、と言いましたがあれも不思議なものなのはそれとなく気付いています。何せ黒電話には線が繋がれていないのです。ですが、確かにあの黒電話は鳴り出します。
きっとこれから、あそこにはまた一枚誰かの詳細プロフィールが重ねられるのでしょう。今となっては彼が「神様」と言っても何も嘘はないとどこか思うのです。