神名くん
私は神名くんと私の分の珈琲を盆に乗せ、階段を上り彼のいる書斎の前に着く。盆を片手で支えて、トントンと軽い音を鳴らせると彼は扉を開けてくれるのです。
書斎までもが真っ赤に染まっています。とてつもなく幻想的で、更に神名くんまでもがそこにおられると更に魅力的で、ついつい目を細めてしまうのです。
「珈琲ですよ、神名くん。」
私がそう言うと神名くんは、扉を目一杯開いて中に入れてくれます。この合図は所謂仕事の電話の一段落という状況でしょう。忙しい時には無理だと言うか扉自体開けてくれませんから。
私は神名くんの後ろに付き従う様に付いていくと、神名くんは、椅子に座り、私は彼にカップを机に慎重に置く。机の上は既に修羅場です。沢山集まり過ぎた資料が大量に積み重なっているのです。
それらに零さない為にも私は慎重になるのです。コトリと優しい音を耳にすると、
「ありがとう。」
と、目を細めて神名くんは、私を見ます。その仕草ひとつひとつが私は好きなのです。私は、「いいえ。」と丁寧に紡ぐとゆっくりと書斎の窓際に背中を預けながら、とても甘い珈琲を口に含むのです。
苦みの失っているそれは、まだまだお子様な私には丁度良く、この静かな空間で更に落ち着かせてくれるものなのです。