神名くん



神名くんは、何も言わないものでしから、此処にいてもいいのか、時々迷う事があるのです。ですが、今回は少々違いました。神名くんは、カップを持ったまま少々そわそわしているのです。



私を見ては、何か口をもごもごとさせる。不審な神名くんに、私は眉を寄せました。神名くんは、時折こういうことがあるのです。昔、といっても中学時代のバレンタインデーの時に、言いずらそうにしているなと思うと、誰かに…神名くんの知らない相手にあげる人でもいたりするのかというあまりにもくだらないことがあったのです。



私は今回もそのような事なのだろうと変に思っていました。ですが、神名くんが口をついて出たのは、



「今日はもう帰りなさい。」



という至ってシンプル。ですがあまりにも重く感じる言葉でした。基本私には仕事の内容とはあまり無関係なのですが、彼がそのようなことを言うときは大抵私には知られたくない事なのだと言うことを私は知ってしまっていますから。



勿論何も言わずに残っていた甘い珈琲を喉に一気に流し込むと、私はそっとその場から離れた。



「神名くん。また、明日。」



私は、口許に笑みを作ると彼にそっと告げた。すると、彼は空いている手を持ち上げひらりと一度降った。それを、私は見届けた後に、ゆっくりと書斎の扉を閉めたのです。





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