神名くん
時間というものは、この神名くんの腕の様に優しく温かく私たちを包んでくれる。私は、神名くんにしがみついたまま、涙を止めた。まだ、目元は赤いのは自覚していたのですが、流石に恥ずかしくなってきたので、そっと彼の胸元を押したのです。
ですが、彼は私から離れまいと腕に力を入れたので私は更に彼の胸元に頬を押し当てられました。
(何故貴方はこの様な行動を…。)
謂えないので心で呟くのです。胸元に耳を当てると彼のドクドクと早鐘打つ心臓の音がダイレクトに私に伝えるのです。そして、私の心臓も彼に共鳴するかのように早鐘打つのです。
離れなくてはという気持ちは気付いたら消えていました。彼にまだ包まれていたいと、そう思ってしまった為でしょうか、私は知らず知らずのうちに彼の背中に手を回していました。
(好き。)
大切な大切な気持ちは口に出して謂えず、ですが、彼のシャツをギュッと掴み、
(好き。貴方が、好きなのです。)
と、心で呟いていました。そのためか、気付いたら今度は先程とは丸きり違う意味の涙が頬を静かに流れました。伝えたい。でも、伝えてはいけない。その二文字は結局彼には伝える事の出来ないままそっと心に仕舞ったのです。