神名くん
「神名くん。」
「んー?」
「そろそろ離して頂きたいのですが。」
「……、うん」
「……。」
「……。」
「神名くん。」
「うん。わかっているけどもう少しだけ。にの………。」
「…………卑怯ですよ。」
「………。」
彼は、私の呟きにくすりと笑う。その息が私の髪を優しく揺らして、くすぐったい気持ちでした。正直に私も名残惜しい気持ちでいっぱいなのです。ですが、長く抱きしめられてしまうと、流石に私のなけなしの理性が保ちません。
いつ、あの二文字を口走るかわからないのです。なので、理性を無くしあの二文字を口走る前にどうか、早く私めを解放して頂きたいと思ったのです。
「神名くん。ごめんなさい。」
私は、胸元を押すと彼はあっさりと私から離れたのです。どこか物足りない…、と思ってしまったのでしょうか、私は寂しそうに眉を下げてしまいました。
そんな、私を見られたくはありません。私は彼から視線を受け取らない様にそっと外れようと俯いたのです。依然として神名くんは、私を見続けていたので、私は彼に背中を向けて書斎を出ようと踵を返した時です。
「あ…、」
と、神名くんが何かを思い出したかの様に呟いたのですが、今の私を見られたくなかったのでそのまま書斎をあとにしたのです。