神名くん



ホームルーム終了のチャイムと同時に委員長が号令をかけるので私たちも立ち上がり礼をします。一限は移動教室でしたので席を立ちました。春、だというのに少々まだ涼しげな風が頬を霞めます。



廊下をただぼんやりとした面持ちで歩いていたときです。突き当たりで左腕は引っ張られ誰かに引き寄せられました。振り返ろうとしたときに口許を大きな手が抑えました。これだけで誰だかわかってしまうだなんて、私も相当重症なのですかね。



泣きたくなった私ですか涙をぐっと飲み込み、その手に空いている手でそっと触れたのです。その手は少々驚いたようで私の拘束を緩めました。私はその手に重ねた手を絡ませてそっと振り返ると、キョトンとしている神名くんがそこにいました。



私はただ、神名くんと向かい合うだけで何も口にしません。ただ、泣きたい気持ちが強いだけに眉を下げてしまっているのは確かなのでしょう。



それを見られたくないので自然と視線が足元に落ちます。すると、神名くんは、ふいに私をきつく抱き寄せるのです。私は目を大きく見開き、いったい何が起きているのかと困惑しました。それと同時に再び目頭が熱くなるのです。



たかが、名前ひとつなのですが、これ程までに根を持つとは、私もまだまだ女々しさが強いですね。それとも、神名くんを相手にしているからでしょうか。きっとどちらも何でしょう。気付いたら、教科書は廊下に落とし彼のジャケットを握りしめていました。



それと同時に一限の開始のチャイムも辺りに響いていました。





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