神名くん



彼の手は温かくそして大きいので私の手をすっぽりと覆い包んでしまう。それを、私は幸せのような気がしてなりません。神名くん、という存在をこの大きく温かな手が、神名くんの器を示しているようで私は好きなのです。



廊下の突き当たりで、そのうえ誰かが通ることの滅多にない場所。更には時間が時間なだけに人通りなど皆無でした。お互いの手を包み合、笑い合う私たちは何か良からぬことをしている気分でした。



現に、私は授業をサボり尚且つ知り合いであっても学校の先生とこのようなことをしていると知られたら周りの人からみたら、大変な事になりうるでしょう。ですが、先程も述べた通り、此処は人通りがただでさえないのです。



私たちが見つかる事など無いのでしょう。ですから、お互いを見、微笑み合う私たちを誰かが知るという事は無いのですが、何せ声が響くのが難点でしょう。



此処ら辺の近くのある教室では私のクラスの級友たちが私を除き一限の授業の真っ最中なのです。その事を神名くんは知っているのでしょうか、私が泣き止んだのを良いことに、口許に人差し指を持って行き静かにのポーズをとるのです。その時の口許は妖艶に笑んでおり、少々頬を赤らめてしまいました。



それを神名くんが気付いていなければいいのですが、なんせあの神名くんですから、きっと私のそんな些細な変化も後々面白い種として持ち出すのでしょうから、私は半ば諦めをつけています。





< 27 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop