神名くん
当時の私はそんなこと知らないのだから、仕方ないというものなので、許してもらえるでしょうけど。私は家の塀から顔を覗かせてその男性を窺っていました。だって、お化け屋敷に引っ越してくるだなんて、好奇心が勝らない筈がない。
気配を最小限まで消して覗いていたんです。男性はただ動くこともなく、じっとお屋敷を眺めていたきりで、だけどもすっと首が揺れたと思ったら、コチラを見る。ホラーかと思う程に背中に寒気がきて、ゾクリとしたのを覚えています。
だけども、その時は私に気付いてではなくて、ただコチラを見ただけだと思った。だが、それは直ぐに消えたのです。
「可愛いお客さんだね。」
確かに彼の口が動いてその声をあらわにした。うえに、それが嘘ではないかのように私に笑いかけたのだ。怖くなって足を震わせていると、彼は私にゆっくりゆっくり、相変わらず覚束ない足元でコチラに来るのです。
あまりにも、高い位地にある頭が逆光を浴びて、眩しかった。彼が私の元まで来ると、私は流石にもう俯いて頭を上げることができなかった。お屋敷をお化け屋敷と呼んでいたため、彼を本当のお化けなのではと考えてしまう始末だったほど。本当、お恥ずかしい。
彼がしゃがむのが感じる、と…、頭に暖かいものが乗っかる。拍子抜けして顔をあげると優しい笑みで私の頭を撫でていた。それでいて緊張が解れたのか、溜めていた涙が溢れ出る。
まだ、子供だから加減なんて解らないもんですよね。もう、わんわん泣いて、泣きつづけましたよ。彼の困ったようにオロオロとしている姿が私に映っていたとしても。