神名くん

ファイルⅢ

*Side Nino*



終業のチャイムとともに私はその場を後にしたのですが、意外にも辺りはシーンとしており、学校というシチュエーションでは限りなく怖いのです。そろそろと歩いていても、キュッキュッと上履きのゴムが廊下と擦れ鳴り響くのです。



それが、誰もいない廊下に反響し私の耳に入るのですから、正直に怖いのひとことです。怖いの苦手な私は軽く涙目に成る程。外は晴れているのですが、妙に廊下は薄暗く何か演出されているのではと考えてしまいます。



「もう、嫌です…。」



独り言までもが虚しく響くので耳を覆いたくなります。今は4階なのですがあまりにもいなさすぎやしませんか。もう、涙が目に膜をひいているので少々歩きずらいのです。



ぐすり、と鼻までならしてしまう始末でした。3階に差し掛かった辺りで廊下は賑やかになりました。生徒は他クラスを意気揚々と行き来している姿や、男子がふざけて騒いだりしている姿を見て妙にホッとしたのです。



そんな時でした。目の端に淡い光りを放つ小さな浮遊物が私の横を横切りました。まるで蛍の光りのようなそれは、薄い薄い緑色をしており、見たことのないもので、私は一瞬だったにしろ勢いよく振り返ってしまったのです。



ですが、その淡い光りを見かけることなどなく、私は一種の寒気を覚えながら小首を傾げました。そして、教室にそろりそろりと入ったのです。もともと存在感などない私は誰にも気付かれることもなく自分の席につくことが出来ました。



ゆっくりと次の授業の準備を終わらせると、読みかけの文庫本を開いたのです。




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