神名くん
それは、突然でした。神名くんは、先程までとても楽しそうに話しをしていたというのに、急に教師の様な表情をしたのです。いや、教師なのですが、私の知っている神名くんは、あの神名くんなのでどこか新鮮でした。
そして、神名くんは、いつもの人懐っこい笑顔を作り、皆に言うのです。
「今から自己紹介してもらいたいと思います。」
とりあえず、一度あなたは教師なのだと言わなくては自覚してくれなさそうで致し方ないのですが。ですが、私はあまり目立ちたくはありません。ただでさえ、影の薄いクラスメートで通っているのです。神名くんに私生活を乱されたくはありません。
いえ。元から彼には私生活を乱されていたのを忘れていました。乱さ続けた生活だったからでしょう。私の感覚は少々麻痺をしているようで……――
「先生、授業は。」
ほら、私がわざわざ手を挙げ問いてしまいました。神名くんは、神名くんで今まで私の存在を忘れていたかの如く目を開き驚きを隠しきれていないようでした。私は妙に恥ずかしく感じ、目許を伏せ、神名くんと視線を合わせまいとしたのです。
神名くんのことです。きっと、此処で一度笑うのでしょう。長年の付き合いなので手に取るようにわかってしまう私めも相当な重傷者。
「僕はこのクラスの人たちを知らないので、今日は最初。ということも入れて授業は飛ばしちゃおう。」
その言葉も相変わらずで、私は顔を上げて小さく苦笑いを浮かべたのでした。