神名くん



そこは、あたり一面真っ白の空間で何もなく、ただ私の頭もとに誰かの足が見えたのです。それは、女性の足でそっと起き上ると、どこか久水先生の面影の残る女性がそこに立っていました。私は目を丸くしてその女性をじろじろと見ていると、



「山本なのか。」



その女性は私の名前を告げたのです。私は驚きました。面影はあると言ってもこの女性は私の知り合いではありません。なので、私の名前を知っているということも驚きでしたし、どうして私をみて驚いているという時点でも少し疑問に思ったところでした。そして、私は気がつくのです。来ている服装が今現代の制服などそういうなまぬるいものではないことに。



服装は明治時代から大正時代にかけての学生服で所謂袴姿だったのです。そして、私の手よりは少し小さめの私の手は自分の手の感覚ではありませんでした。驚いて頭を触ってみますと、どうやら高い位置で一つ結びをし、そこに大きめのリボンを結びつけている様で。足元を見ると、黒塗りの草履に足袋と言った現代から少し離れた時代の格好をしていました。



「えっと、私は山本仁乃といいます。久水先生でしょうか。」



私は、疑い半分にその女性にそういったのです。この際はもう自分の背、格好などを気にするといけない気がしたのですから。きっと、神名くんに会うことができたのならばその時はこの格好の意味も教えてくれるでしょう。そして、この格好を私は嫌じゃなかったのですかし。妙に懐かしく感じてしまったからでしょうか。私はそっと、胸元に手をあて落ち着きを取り戻すかのように息を吐いた。



そして、息を吐いたと直後にその女性は口許を緩めて



「ああ。本当に山本だ。俺は確かに久水正弘だ。」



そう言って笑んだ姿は生前よく見せていた先生にみえたのです。





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