神名くん



「生きるってどういうことだったのだろうか。」



突如として先生は口を開いたのです。その声音はとても弱々しく、私めに尋ねているというよりも、ご自身で考えるために呟いたのでしょうが、人のいる前で呟いているという行動に対して考えるのならば、私めもご一緒に考えましょうというという意図に問題はないのでしょう。ですが、私にとってはまだ、そんな解答に手を出すつもりなど毛頭ないものですから、何をどう誤魔化してしまおうかと考えてしまう始末でした。



そのうえ、私めは、先生と違ってまだ生を受けている最中なのです。その難解は生を受けている最中の者にとっては、一生背負う問題なので、今のうちに解答を出すというのは、もう、いつ死んでも悔いのないときでしょう。正直に私めは、まだ生きていたいと考えているので、その様な愚かなことに手を出したくはないです。ですが、先生は時すでに遅しという状態で魂だけの状態なのです。これは、“久水正志”という終止符を打たれたためにその答えに迫りたいのでしょうが、巻き込まれた私にとっては、いささか不愉快にしてならないのです。だからなのでしょう。私は、少々不機嫌になりつつも、“今の”私の解答を述べたのです。



「私は、まだ17です。人生で言いますと、まだスタートラインに並んだ位置にいるのでしょう。そんな私は、いまだスタートもしていない人生で生きるという事を述べることなど出来ないのですし、それうを今見つけてしまったのなら、私はリタイアし、観客席で今からスタートする者たちなどを見なければなりません。そんな人生など、面白くもなんともありません。その上に、その答えなどは“他人と一緒”の筈がないのです。そして、それらを捜すために、私めは生きています。ですが、先生。貴方はもう、亡くなってしまったが為に、その答えを“他人と合わせよう”としているのです。それは、他の人から見たのなら卑怯です。ですから、そんな先生には、私から言う言葉は一つなのです。先生、もう一度探し直したらどうですか。自らの解答を見つけたらどうなのでしょうか。」








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