神名くん



お互いの会話が飛び交うわけもなく。やはり、沈黙の時間は滞っていたのです。私も、これ以上先生に何かを言うつもりなどないですし、先生は一体全体何を考えているのかも分からないので、こういうことになるのも結果的に分かるというものでした。それでも、先生が私の見解を知りたいと思っていたようなので、これは、これで彼の何かが変わるきっかけになったのではないのでしょうか。そうであってほしいと願うのは、私が彼に意見を述べたからでしょう。緊張してしまうのですが、私は彼をただみつめ、次の行動を待っていたのです。



すると、先生はふいに見続けていた目線をそっとそらしたのです。そして、手元を持ち上げながら、



「そろそろ、タイムリミットの様だね。」



そう、言ったのです。そして、その手元を覗くと、うっすらと消え始めているのです。私は、恐ろしくなりました。どうしたらいいのか、分からなくなりました。それでも、今外には神名くんが居るのです。彼のもとに先生を出したらきっとどうにかしてくれるでしょう。ですが、先生をどのように外に出せばいいのか分からないのです。



「せ、先生。」



泣き出しそうになってしまったのです。先生が目の前から消えるって思ってしまったのです。手を伸ばすと、それを振り切るようにして、避け彼は私を見据えたのです。



「君の言葉はとても心を動かされるよ。ありがとう。そうだね、俺はもう長くはいてはいけないみたいだ。だから、そんな風に泣かないでほしいな。大丈夫。きちんと、彼に連れて行ってもらうから。だけど、最後に君に一言。」



相変わらずの柔らかい笑顔で、先生はそっと口を開いたのです。



「大丈夫。俺はここには留まる事が出来なくなっただけだから。君と出会えてよかった。そして、君が俺の生徒で本当によかった。また、会おうね。」



そう言うと、先生は完全に消え去る前に此処から出たようで、光を一身に携えて目の前から消えたのです。私も、私もで急に眠たくなってそのまま瞼を閉じたのです。





< 56 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop