神名くん
「久しいな。神名。君はまた"彼女"と出会えたのだな。」
どこか、慈しむような表情で神名くんを見つめるその表情は先ほどの恐ろしさは消えて、妙に懐かしさを感じさせるものであった。私はついその女性の顔を見つめてしまったのです。すると、月乃と呼ばれた女性は私めにそっと手を伸ばし頬を優しく撫でたものだから私は驚いて肩をあげてしまったのは条件反射というものでしょう。
「もう。会えないと思ったのだが、こうして会えたのだからよしとするか。きっと、この子はボクのことを覚えていないのでしょうけども。魂と魂は結びついている。そしてそれは前世よりの絆。お前と彼女はずっとともに暮らすだろう。しかし、その絆がとても太すぎて神名。お前は彼女以外を愛せないのだな。しかし、それは以前も言ったことであもあるから…な。今回も大丈夫だろうよ。」
悲しそうに目を細める彼女にどう反応したらいいのでしょう。私はただなされるままされるがままに頬を優しく撫でられたのです。そして、その言葉の解釈を理解できないまま神名くんを見ると、どこか神名くんは寂しそうに笑んでいるのです。どうしたらいいのだろうとおろおろしていると、不意に神名くんは私の頭を支えてそっと強く抱きしめたのです。
「だから…。だけど…。」
曖昧な接続詞をつなげて肝心のところを言わない。彼は相当混乱しているようでした。私は、小さい手を伸ばしてそっと神名くんの頭を撫でた。すると、神名くんははじけたようにこちらを見ると、嬉しそうに笑ったのです。それだけで私はとてもうれしくなったことなど彼はしらないのでしょう。
月乃と呼ばれた女性と誠と呼ばれた男性はそんな私達を見てどう思ったのでしょう。私には分からないけれども、冷たい眼差しではなかったことは小さいながら理解していたつもりです。夏になると思いだす。淡い夢とともに金魚の帯が揺れるあのにぎやかな場所での小さな巡り合いを。