神名くん
「なるほどね。だから健(ケン)はあんなにも喜んでいたのか。」
「健と言うのは…どなたですか。」
「お前を誘った奴の名前。お前、名前も知らないでOKしたのか。」
半ば呆れた口調で私にそういったものですから、流石の私もムッとして頬を膨らましたのです。しかし、私自身も彼の名前を知らないでOKしたのですから、そこの落ち度と言う点では何かを言い訳出来るような立場ではないと言うのを重々承知していました。だから、慎一に何かいいわけを口にすることが出来なかったのです。
私は、風で揺れる髪の毛をそっとおさえると、何も言わずに空を仰いでいる神名くんを見上げました。先ほどから、何を考えているのかまったくもって分からず、かと言って何も喋ることがないので、不思議に思っていたのです。しかし、それは今でもそうなので彼を見て何か分かると言うわけではないのですが。
柔らかい髪の毛を風に泳がせて空を仰ぐ神名くん。その髪の毛に手を伸ばしてそっと撫でてみたいと思うのは人間の性というものでしょうか。しかし、私の身長で彼に届くという自信もありませんし、そんな不審なこうどうをとったときに、何故したのかを絶対に聴かれるでしょう。私は、それにこたえられるほど口が達者ではありません。きっと、彼に何も言えずにいじられるのが落ちなので、その衝動を一生懸命呑むことにしたのです。
「でも、まあ。健も悪い奴じゃないけど、何かあったら思い切り頼れよ。きっと下心があって誘ったんだろうし。」
慎一はそう言うと私の頭を優しく撫でたのです。私は、その優しいてつきにゆっくりと微笑んで、「ありがとうございます。」と言うと、慎一は頬を朱色に染め上げたのですが、
「はい、そこまで。」
そう言って神名くんが慎一の手を私の頭からどかしたので、慎一が怒りで真っ赤になってしまった。私は、相変わらず男の子の心情が上手くつかめずここの幼馴染とお隣さんの心境を理解できると言う日が来るのは遠そうに思えたのでした。