【短編】そばにいるよ。
穂乃花との分かれ道は、わりとすぐで、校門を出て最初の曲がり角を穂乃花は右側の道へ、あたしは左側の道に曲がることになる。
そこに来たときにまで、別れ際にナオの名前を口にするものだから、微妙にプレッシャーだ。
「さて。ナオのバカ面でも見に行きますかね」
誰に言うでもなくそう呟き、白い息をほうほうと吐きながら、通学路を歩きはじめる。
穂乃花の言う通り、たぶんナオは、あたしが来るのを待っていると思う。
いつも軽いだの、地球の裏側まで行っちゃえだのとキツいことを言っていても、やっぱりナオのことが気になり、また、バカナだの、安心してフラれるんだぞーだのとやじっていても、実際はけっこう傷ついているのだ、ナオは。
大好きな甘いお菓子を食べている間だけでも、あたしがそばにいてあげたいと思う。
そうして、自分の家に帰る前にナオの家に寄ったあたしは、ナオのお母さんにあいさつをすると、慣れた足取りで2階の部屋に上がった。
ナオの部屋は、階段を上がってすぐだ。
2回ノックをし「あたしだけど」と声をかけると、中から「おー」という返事が返ってくる。
あまり声に元気がないところを察すると、思った通り、けっこうヘコんでいるらしい。