【短編】そばにいるよ。
「試作のケーキ、持ってきたよ。莉乃が、ナオの意見も聞きたいんだって。食え」
「お前、食えって強制かよ。ま、食うけど」
ベッドに仰向けに寝転がっていたナオは、エクソシストのように首をぐにゃりとこちらに向けると、ぶっちょう面でケーキの箱を突き出すあたしを見て、ため息をつく。
だいぶ着古したヨレヨレのTシャツと、ところどころに擦れて穴があいたスエットを履いて、ぐだぐだしているナオを知っているのは、学校中の女の子の中で、おそらくあたしだけだ。
まあ、それを知っていたところで、特に嬉しいわけではないのだけれど、ただ、だ。
「ナオ。なんで女の子の前でズボンを下ろす」
「いや、スエットのゴムが緩いから、って、さっき母ちゃんがゴムを入れ直しやがって」
「いやいや、だから、なんでズボンを下ろす必要があるのか、って聞いてんの。ゴムがキツかろうと、何だろうと、女の子の前でパンツになるなんて、いよいよバカを極めたか」
そうなのだ、あたしからケーキの箱を受け取ると、それを小さなテーブルに置き、なぜかおもむろにスエットを脱ぎだすから、どうしてもまた、キツい言い方になってしまう。
相手があたしだから、冷静に対処もできようものなのだけれど、1歩間違えれば、とんでもない露出狂だと思われかねない。