【短編】そばにいるよ。
「うまいよ、とっても。ただ、ひとつ意見を出せと言われたら、愛情が足りないな、うん」
「は? 愛情?」
「そ、愛情。俺に食べさせたい、っていう愛情が、このケーキには足りない感じがする」
……おいおい、また変なことを言ってきたよ。
もともとがナオに食べさせる予定はなかったというのに、どうやってナオに食べさせたいという愛情を込めろというのだ、まったく。
これじゃあ、ケーキを何度試作したところで、ナオのお墨付きはもらえないじゃないの。
こめかみに指を当て、ふるふると頭を振る。
ダメだ、明日、莉乃になんて言えばいいの……。
すると、指についた生クリームをペロリと舐め取ったナオは、しかし口の端にスポンジケーキのかけらを付けたまま、言うのだ。
「これ、ほとんどカナが作っただろ。俺に対する憎しみが、ありありと伝わってくるぞ」
「な……っ!ほとんどあたしが作ったのは当たってるけど、憎しみなんて込めてないよ!どんだけ被害妄想なのよ、バカかっ!!」
「バカって言うほうがバカなんですー!」
「ほんっとガキだね、ナオは」
「ふんっ、どうとでも言ってくれっ」
……嫌だ、もう。
幼なじみがこんな男だなんて。