【短編】そばにいるよ。
 
確かに今日の試作は、ほかの部員たちは違うケーキを試作していたり、使った材料を細かに記録する役割をしていたりと、全員でひとつのケーキを作ったわけではなかった。

ただ、重ねるけれど、あたしがほとんど作ったとしても、憎しみなんて込めていない。

レシピ通り、あるいは少し分量を変えてみたりしながら、普通にケーキを焼いただけだ。


「ちょ、ふざけてないで、本当のところはどうなのか教えてよ。とりあえず百歩譲って、憎しみは込めてあったとしよう。でも、あたしが聞きたいのは、口当たりとか甘さの加減とか、そういうものなの。さっきあたしが言った以外に気になったところはないわけ?」


けれど、あれだけ気合いの入っている莉乃に、愛情が足りない、なんてわけの分からないことを言えるはずもないため、聞くしかない。

愛情は込めたさ。

ただし、ナオにではなく、不特定多数の人に美味しく食べてもらえるように、だけれど。


「うーん……。そう言われてもなぁ。スポンジはもうちょっとしっとりしてたほうがいいと思うし、生クリームも、飽きのこないように甘さを調節したらいいと思うけど、それ以外に気になったところというと、やっぱ愛情だよ」

「そんなぁ!」
 
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