【短編】そばにいるよ。
今回は、たまたま。
たまたま、あたしがほとんどを作ったのだ。
部員たちはイブの前日から休日返上でケーキを焼きまくるというのに、ナオに食べてもらいたいと思って作れるはずがないじゃないか。
ああ、どうしよう、いよいよこれは、本当に莉乃に報告できる改善点が……ない。
「ちょ、カナ」
「なによ」
すると、がっくりと落ち込んでいるそばからナオが話しかけてきて、あたしは、思いっきり顔をしかめながら声の主に目を向けた。
Tシャツにパンツ一丁という、相変わらず変態そのものの格好をしているナオは、しかし顔だけは整っていて、なんだか異様に腹が立つ。
「俺、思ったんだけど、カナが作らなきゃいいんじゃね? それか、俺が食わなきゃいい」
「なによそれ。話になんないじゃん」
「あ、いや、俺が食わなきゃいいんだ、うん。俺はカナが作ったものだってすぐに分かったけど、ほかの人はそこまで分かるわけがないし、莉乃ちゃんにも、スポンジと生クリームの調整を頑張ってみてくれ、って伝えといてよ」
「……」
家庭科部に入っているあたしのことを丸々否定するってか、こんの、変態パンツ野郎っ。
けれど、それでも残りのケーキを大きな口を開けてパクパクと平らげていくのだから、ナオの考えていることは、さっぱり分からない。