【短編】そばにいるよ。
 
「はあ、もういい。ナオに聞いたあたしが間違っていたのよ。とりあえず、食べてくれてありがと。いくら試作だって割り切っていても、みんながお腹いっぱいで捨てなきゃならなくなるのは、けっこうダメージ大きいから」


バカなナオの考えることなんて分からない、と諦めて、あたしはそう言い、立ち上がる。

帰ろう。

あたしも晩ご飯を食べなくちゃ。

莉乃には、ナオもやっぱりスポンジと生クリームだって言ってたよ、と報告するしかない。


「おうおう、帰れバカナ」

「……ったく、バカナって言うな、って言ってんでしょうが。何回も何回も、しつこい」

「うわー。だから彼氏ができないんだっつの」

「余計なお世話ですっ!」


そうして一通り、やいやいと言い合うと、最後に軽蔑の目をナオに向けてやり、コートと鞄を持って、ナオの家を後にする。

ナオとあたしの家は隣同士で、ナオの家からはカレーが、あたしの家からはシチューの香りが冷たい風に乗って漂ってきていて、こんなふうに言い合った日に晩ご飯のメニューも同じじゃなくてよかった、と思ったあたしだった。

穂乃花や莉乃は、あたしたちの言い合いを、仲がいいね、と言うけれど、けしてそうじゃないことだけは、はっきりと言っておきたい。
 
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