【短編】そばにいるよ。
「ナオ君ってば、カナにケーキを作らせろ、作らせろ、って、ずーっとうるさくって……。カナからも言ってもらえないかな、みんなで作ったケーキでいいでしょ、って」
ああ、読めてきた、読めてきた。
この間の、あたしがほとんどを作った試作のケーキが気に入らなかったため、彼女と食べる大事なケーキだからこそ、あたしに作らせる、という、新手の嫌がらせだ、きっと。
自分への憎しみがありありと伝わってきた、とのことだったし、ならその仕返しに、と、バカなナオが思いつきそうなことである。
だから、憎しみなんて込めていないっての。
「あたしからも頼むよ、カナ。穂乃花やあたしが、いくら忙しいから無理だって言っても、全然聞く耳を持ってくれなくてさ……」
莉乃もどうやらお手上げなようで、穂乃花に続いて、切実な目で、そう訴えてくる。
ちなみに、莉乃、穂乃花、ナオは同じクラスなため、他クラスのあたしがそのあたりのことを知らなかったのは無理はなく、と同時に、さぞかしナオの無理難題に悩まされたことだろう、と思うと、本当に申しわけない。
家庭科部のあたしが言ってはならないことかもしれないけれど、たかがケーキだ。
その、たかがケーキのためだけに2人を悩ませるなんて、どんだけバカなのよ、ナオは……。