【短編】そばにいるよ。
◇そばにいるよ
それから数日後、迎えたクリスマスイブ。
「カナ、帰ろうよ」
「やだやだ、帰りたくないー」
終業式を終え、クリスマスケーキの販売も大盛況のうちに終わった、午後7時。
後片づけや打ち上げも終わり、あとはほどよい疲労感に包まれながら帰るだけだというのに、あたしはテーブルにカエルのごとく張りついたまま、莉乃や穂乃花の手を煩わせていた。
「いい加減にするの!カナ!これじゃあ、いつまでたっても家庭科室の鍵が返せないでしょ」
「そうだよ、カナ。帰ろうよ」
「……やだもん」
しかも、思いっきり。
というのも、先日、グリコちゃんに言われたことがどうにも気になり、ナオと顔を合わせにくいのが原因で、できるだけ遅く帰ろうと思い、こうして時間稼ぎをしているのだった。
ナオを見ると避け続けること丸3日となった今日は、なんせ、あたしのケーキを食べに来るはず、とグリコちゃんが言ったイブだ。
会いたいわけがない。
「もう。いい加減、腹をくくりなさいよ」
「ごめん、莉乃。でも本当に帰りなくないの」
「そんな可愛い台詞、どこで覚えた」
「はは……」
腰に手を当て、呆れた顔で長いため息をつく莉乃に、あたしは笑ってごまかす。