【短編】そばにいるよ。
「遅かったじゃん。ケーキ、待ちくたびれたんだけど。どんだけ待ったと思ってんの」
「……」
あたしが帰宅した音を聞きつけ、ご丁寧にも出迎えに来たのはやはりナオで、スニーカーを見なかったことにしようと思った算段は、ものの数秒で打ち砕かれてしまった。
ていうか、あたしの帰りが遅いことを心配していたんじゃなく、ケーキが目当てって……。
あたしじゃなかったら、軽く傷つく台詞だ。
「まあ、いいや。さっさと食おう。おじさんもおばさんも待ってんだ、切ってくれ」
「……はいはい」
ケーキの箱をじっと見つめ、そう催促してくるナオに、居留守を使うことは諦め、食卓の上で箱から出し、見せつけるように切ってやる。
ナオはその間も「おおー」とか「砂糖菓子のサンタも付けてくれ」なんて言ってきて、まるで子どものようで、妙にがっかりだ。
いちいちケーキに興奮し、サンタの砂糖菓子を欲しがり、お世辞でも「帰りが遅くて心配だった」とも言えない男に、どうして恋人が絶えないのか果てしなく疑問だし、そんな男に悩まされていたあたし自身も、とことんバカだ。
……やめよう、余計なことを考えるのは。
お皿に切り分けたケーキの脇にサンタを添えてやりながら、あたしはそう決めた。