【短編】そばにいるよ。
「満足いくまで食べたら、さっさと帰るのよ。大事な予定だってあるんだから。それと、このケーキは、部員全員で不特定多数の人に美味しく食べてもらえるように作ったものだから、ナオにだけ食べてもらいたい、っていう愛情は入っていません。そこは分かっておいて」
「っだよ。分かってるよ」
「なら食べてよし」
食べてからやいやいと文句を言われても困るため、あらかじめ、そう言っておく。
するとナオは、あまりいい顔はしなかったものの、「いただきまーす」と手を合わせ、大きくケーキをカットし、口に運ぶ。
「うま!」
「それはよかった」
だって、生徒が一生懸命に世話をした学校の動物たちや育てた果物から頂いた最高の材料なんだもの、これで美味しくないわけはない。
愛情だって詰まっている。
「お父さんたちはどう?」
「うん、美味いよ。スポンジと生クリームの加減が絶妙だ。いくらでも食べられそうだよ」
「そうね。上手にできたわね、カナ」
「でしょ!」
両親からもお墨付きをもらい、やっとあたしもケーキに口をつけはじめる。
うん!
ギリギリまで粘って粘って、妥協せず試作を繰り返しただけあって、本当に美味しい。