【短編】そばにいるよ。
それはさておき。
ベッドから這いずり出て、もしゃもしゃとケーキを食べはじめるナオを確認しながら、コートをハンガーにかけたり、明日の準備をしたりしながら、今できることを片付けていく。
いくらナオがあたしの前でパンツになれても、さすがにあたしは着替えはできないし、それくらいの恥じらいは持ち合わせているつもりだ。
「それ食べたら帰りなよ? 大事な予定だってあるんだしさ。もう9時になっちゃうじゃん」
「てか、さっきから言ってる、その、大事な予定、ってなんのこと? さっぱり分からん」
「は?」
ストーブの前に陣取り、温風を正面から受けながら、背後のナオに、そう促す。
けれどナオは、まるで言った覚えがないような呆けた口振りでそう言ってきて、あたしは思わず振り返ってしまい、すると、口調と同じく生クリームを口の端につけたバカ面と目が合う。
「え、グリコちゃんと約束してた予定をドタキャンしたときにそう言われた、って聞いたよ。なにそれ、嘘だったわけ? サイテー」
「あー、それか。……うん、なんつーか、急に面倒くさくなった、っていうか、あれだよね」
「あれ、って何よ」
「……、……。うっさい。帰る!」
「はっ!?」