【短編】そばにいるよ。
 
うっさい、って、なんなんだ、ナオめ。

そんなに声を張ったつもりはないぞ。

声を張ったというのなら、今の「はっ!?」のほうがよっぽど声が出ていたと思うし、それに、まだ一口ぶんケーキだって残っているのに、いきなり帰るとは、どういう心境の変化?


しかしナオは、ケーキをたんまりとお腹に入れてだいぶ体が重いはずなのに、それはもう、素早く立ち上がり、本当に帰ってしまう。

……み、身軽すぎる。

いや、身勝手すぎる、か、この場合は。

それにしても、ナオは分からん。





結局、グリコちゃんに言った、大事な予定、とやらは分からずじまいのままとなり、一口ぶんだけ残ったケーキは、仕方がないので、あたしが美味しく頂くことになった。

そして、翌朝。


「うー、さむいー……」


手ぶくろにコート、耳当てに、ロングのマフラーもぐるぐる巻きにして防寒対策をし、外に出たあたしは、しかし、想像以上の寒さに思わず身を縮め、一瞬だけ、コロンのお世話をサボってしまいたい衝動に猛烈にかられた。

けれど、コロンはとっても可愛い。

今もきっと、お腹を空かせ、あたしを含めた今日のお世話当番が来るのを待っているのだ。
 
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