【短編】そばにいるよ。
うっさい、って、なんなんだ、ナオめ。
そんなに声を張ったつもりはないぞ。
声を張ったというのなら、今の「はっ!?」のほうがよっぽど声が出ていたと思うし、それに、まだ一口ぶんケーキだって残っているのに、いきなり帰るとは、どういう心境の変化?
しかしナオは、ケーキをたんまりとお腹に入れてだいぶ体が重いはずなのに、それはもう、素早く立ち上がり、本当に帰ってしまう。
……み、身軽すぎる。
いや、身勝手すぎる、か、この場合は。
それにしても、ナオは分からん。
*
結局、グリコちゃんに言った、大事な予定、とやらは分からずじまいのままとなり、一口ぶんだけ残ったケーキは、仕方がないので、あたしが美味しく頂くことになった。
そして、翌朝。
「うー、さむいー……」
手ぶくろにコート、耳当てに、ロングのマフラーもぐるぐる巻きにして防寒対策をし、外に出たあたしは、しかし、想像以上の寒さに思わず身を縮め、一瞬だけ、コロンのお世話をサボってしまいたい衝動に猛烈にかられた。
けれど、コロンはとっても可愛い。
今もきっと、お腹を空かせ、あたしを含めた今日のお世話当番が来るのを待っているのだ。