【短編】そばにいるよ。
あたしたちの高校は農業高校で、このケーキには、生徒たちが一生懸命に世話をした牛から搾った牛乳や鶏卵、小麦に果物、その他、たくさんの時間や手間をかけたものが使われている。
そうして形になったものが、このケーキ。
あたしも動物や作物の世話を通して、食べ物のありがたみを肌で感じているため、捨ててしまうくらいならナオに持って行こう、そう思い直すのに、それほど時間はかからなかった。
……まあ、捨てる、というのは、莉乃の可愛いおどしなのだと分かっているのだけれど。
「それじゃあ、ナオ君によろしくね。食べてもらった感想、あとで教えて」
「うん、分かった」
「また明日ね。バイバイ」
「バイバーイ」
莉乃に余ったケーキを箱詰めしてもらい、穂乃花と一緒に家庭科室を出る。
今日、試作したケーキは生クリームのもので、ほかにはチョコクリームケーキとブッシュドノエルも販売する予定になっている。
その2つは、レシピがもう完成していて、手直しをする必要はないくらいの完成度なのだけれど、1番人気の生クリームケーキだけは、やはり気合いの入り方が違い、納得のいくものができるまで試作を繰り返すこととなった。