【短編】そばにいるよ。
 
「本当は、莉乃に言われなくても、ナオ君に持っていくつもりだったんでしょ?」

「どうだかなー」

「ふふっ、素直じゃないなぁ、カナは」

「……もごもご」


すっかり暗くなった廊下を下駄箱に向かって歩いていると、右手に持っているケーキの箱を見た穂乃花に図星を指され、あたしは本当に、もごもごと言いながら口ごもる。

それを聞いた穂乃花は、また、ふふっと笑い、鞄を肩にかけ直すと、こう言う。


「カナが顔を見せれば、ナオ君は基本的に元気になるようにできているのよ。お互いに大事な人ができるまでそばにいる、っていう約束、あたし、すごく素敵だと思うな」

「まあ、おかげであたしは、恋の気配は全然ないんだけどね。でも、ナオはのびのびやってると思う。バカなりに一生懸命だし」

「そうだね」

「うん」


下駄箱に着き、靴を履き替えて外に出ると、マフラーと手ぶくろで防寒対策をばっちりしていても、思わず寒さに身震いをしてしまう。

ああ、冬だな、とっても。

寒い寒い。


「じゃあ、また明日ね。ナオ君にちゃんとケーキ食べてもらうのよ。バイバーイ」

「はいはい。バイバーイ」


まったく、穂乃花は……。

ちゃんと食べさせるよ、ちゃんと。
 
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