スクランブル・ジャックin渋谷
倒れていた宏が、起き上がった。携帯電話を内ポケットから取り出して、何やら送信をしている。

モニタービルAの事務所に、送ったようだ。

 博恵、フと我に返った。踊っている、周囲の人々を見渡す。携帯電話を使用している、宏を見る。宏だけ、踊っていない。

博恵「宏、踊ろうよー」

 宏、慌てて携帯電話を内ポケットにしまう。深呼吸をし、怖い顔をして博恵をじっと見つめる。

博恵「何よ…?」
 博恵は、ムッとしている。

 宏、胸ポケットから、右手で1枚の用紙を取り出した。腕を伸ばし、逮捕状のように、博恵の目の前に見せつけた。

宏は、真剣な顔をしている。勇気を振り絞っている。

博恵「何よ、これ…?」

宏「お前を一生、俺が逮捕する。黙ってこれに、署名捺印しろ」 
 用紙を、博恵に手渡す。受け取って、じっと見る博恵。

博恵「これって、逮捕状じゃない」

 宏、慌てて用紙を良く見る。確認する。用紙が違う。
 白い歯を見せて、ニコッと笑ってごまかす。

 胸ポケットから、婚姻届を取り出して、博恵に手渡す。受け取る博恵。用紙をじっと見る。

博恵「これって、婚姻届じゃない」
 博恵は、驚いて宏の真面目な顔を見つめる。

宏「署名捺印したら、一緒に踊ってやる」

博恵「あのねー。結婚の申し込みって、多少、順序っていうものがあるでしょう」
 博恵は、あきれ返った。
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