スクランブル・ジャックin渋谷
宏「何だよ、順序って?」

博恵「順序って、あの、その、決まり文句があるでしょう」

 博恵は、困惑してしまった。乙女心を理解していない。

宏「言っている意味が、良く分からない」
博恵「けじめよ、けじめ…」

 宏、イライラして、大声を上げる。威圧する。

宏「とにかく、署名するのかしないのか、どっちなんだよ。ハッキリしろっ」
博恵「ハイ…」

目線を路上に落として、渋々と小声で博恵は答えた。

小さい頃から夢を見ていた、結婚への憧れ。夢見る乙女心を、打ち砕かれた。博恵には、奇跡は起きなかった。

宏「良し。今度、博恵の実家にあいさつに行こうな」
博恵「ハイ…」

 博恵は、小声で軽くうなずいた。宏は、博恵のアルバイトの予定など、無視して語っている。もう、勢いで行くしかない。

 宏、博恵の両手を握ってチークダンスを踊り始める。全然、踊りになっていない。下手くそだ。

 宏、博恵の右足を踏みつける。
 博恵、グッと痛みをこらえた。ガマンして、宏に抱きついている。

 平然と踊っている、宏。下手であることを、自覚していない。

 博恵、宏の踊りの下手くそさ、結婚の申し込みへの不満を抱きながら、一緒になって踊っている。

博恵の声(僕と結婚して下さい、ってけじめぐらいつけてよね…)
 と頭の中で、自分自身につぶやいた。

宏「結婚指輪は、パチンコで稼いだら買ってやるからな」

博恵の声(もう、ムードがないんだからー)

 男女が頬をすりよせて踊る、チークダンスを踊っている。

 周囲の人々は、自分なりの個性的な踊りを披露している。
 踊り狂っている、大勢の人々。
    ○    ○
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