抱き締めて言って?
抱き締めて言って?
私は彼を見つめる。左手で頬杖をついて、ちょっと不機嫌にみえるかもしれない。でも、実際気分はよろしくないんだから、顔や態度に出ちゃうのは仕方ないんじゃない?そんなに大人じゃないんだもの。

「…で、ここがどうしてこうなるかというと」

いつも私は不機嫌になる。どうしようもないことなのに。たぶん、彼がそこにいるってだけで、私には嫉妬の対象になるんだ。
面倒くさい執着心と独占欲ってやつ。
自覚はあるけど、どうすることもできない。

よく通る声が綺麗な発音で外国語を奏でる。まるで楽器のように、美しく清らかに。

「Vous lui parlez.…あなたは彼と話す、という意味ですが、この場合は」

ほんの一瞬こちらを見た。私を見たのかはわからないけど、私が座っている方向に視線を走らせたのは確かだ。

「質問してもいいですか?」

「授業に関係あるならね」

手を挙げて珍しく発言したのは学部で有名なお調子者。この授業でまともな質問をしたことがない。『先生のタイプは?』から始まって、ほとんど意味のないくだらない質問ばかり。だから今回もそれを見越して『授業に関係あるなら』と釘を刺したのだ。

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