運命みたいに恋してる。
「七海ちゃんはさ、十年の時間をかけて、自分の理想の王子様を作りあげていたんだよ。でもそれは七海ちゃんの王子様であって、本物の柿崎さんじゃないでしょ?」


目をパチパチさせているあたしに、花梨ちゃんはゆっくり説明してくれた。


「出会ってから一度も会うことすら叶わなかった相手に、本当の恋ができると思う? それは憧れだよ。七海ちゃんは理想の王子様に憧れたんだ」


ただの憧れを運命の恋だと思い込んで、余裕をなくして突っ走った。


でもいつか、恋じゃなくて憧れだったと気がつく日がくる。


そのとき、きっと自分の不誠実さを責め、姉を裏切った事実に苦しむだろう。


「だからあたしは止めたの。それでも七海ちゃんが突っ走る道を選んだ以上、あたしにはもう口出しできなかった。まぁ、最後には味方になろうと思ってたけどね」


あたしは花梨ちゃんの話を聞きながら、軽い混乱状態だった。


あたしの柿崎さんに対する気持ちが恋じゃなかった? そんなバカな。


「そもそも恋と憧れって違うものなの? 同じじゃないの?」


「そこは難しいところだけどね。ハマチとブリみたいなもんかな?」


「ハマチとブリって、なに?」


出世魚(しゅっせうお)。同じ魚だけど成長の度合いによって、味も身の質も変化するの」


「ごめん花梨ちゃん。ちょっとよくわかんない」


ますます混乱するあたしに、花梨ちゃんは「だろうねぇ」って納得している。


「こういうのは理屈じゃなくて、心で理解するものだから。でも七海ちゃんはもう理解してるはずだけどね。だって毎日王子様の隣にいながら、大地を好きになったんでしょ?」
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