運命みたいに恋してる。
つまりお母さんは、お姉ちゃんのために、とても条件のいい結婚相手を探してきたんだ。


ところが、もう柿崎さんという心に決めた人がいるお姉ちゃんにとって、それは余計なお世話以外のなにものでもなくて。


強引に結婚を決められそうなことに危機感を抱き、柿崎さんの存在を告白して、なおかつ結婚を宣言した。


まさかお姉ちゃんに、真剣に交際している相手がいるなんて夢にも思わなかったお母さんが、予想外の展開に拒絶反応を起こしている。


……ということなんだと思う。


「もうこの話は終わりよ。お母さんは、その柿崎とかいう人との結婚なんて、絶対に許しませんから」


「お母さん! そんなの横暴よ!」


「なんと言われようが許しません」


お母さんの目が静かにギラギラしている。ずっと父親役も果たしてきたお母さんが怒ったときの迫力は、圧倒的だ。


「わかったわね? なにがあろうと絶対に、お母さんは許しません!」


自分の恋をお母さんに全否定されたお姉ちゃんの両目に、みるみる涙が盛り上がった。


唇をブルブルと震わすお姉ちゃんに、お母さんは、冷たい声で容赦なくトドメを刺す。


「現実を見なさい。一海はお母さんが選んだしっかりした人とお見合いして結婚するのが、一番幸せなのよ」


お姉ちゃんは、赤ちゃんが泣く寸前のような悲しそうな顔で、首をゆっくりと横に振った。


そのたびに涙が頬をポロポロと伝って落ちる。


でもお母さんは、お姉ちゃんの必死の主張を拒否して、クルリと背を向けた。


完全に絶望したお姉ちゃんは、ついに悲鳴のような泣き声を上げた。


「う……あぁ……うああぁーー!」


お姉ちゃんがバッと身を翻し、泣きわめきながら玄関に向かって走り出す。


「お、お姉ちゃん!」


混乱しきったあたしの体は動かなかった。代わりに花梨ちゃんが素早く動いて、お姉ちゃんの後を追う。
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