運命みたいに恋してる。
あたしはズカズカと大股で歩いて、調理台のコンロに向かい、お鍋の中を覗き込んだ。


……やっぱり。覚えのある匂いだと思ったんだ。


これ、お姉ちゃんの必殺技のビーフシチューだ。


お店で作ったものを柿崎さんが持ち帰って、みんなで食べてたんだろう。


……貶してたくせに。


お姉ちゃんのことをさんざん貶したくせに、そのお姉ちゃんの手作りの料理を食べてたなんて。


うまいうまいって食べたのと同じ口で、お姉ちゃんを傷つけたなんて!


「あんたなんかに、このビーフシチューを食べる権利はない!」


あたしはお鍋を両手でしっかりと掴み、ぶうんと振り回して、絶妙のタイミングで両手を鍋から離した。


弧を描いて飛ぶお鍋が、まるでスローモーションのように目に映る。


――バッシャーーン!


「うわあ!? 熱ちぃーー!」


全身ビーフシチュー色に染まったオヤジが、悲鳴をあげながらピョンピョン飛び跳ねている。


近くにいた大地は素早く避けて、オヤジひとりがモロに被った。


最高の仕上がりだわ! はっはっはーだ!


「思い知ったか! 正義の鉄槌だ!」


あたしはピンと胸を張り、堂々と勝利宣言をしたのだった。





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