運命みたいに恋してる。
それから自宅に帰ったあたしには、大仕事が待っていた。


帰宅したお母さんに、お姉ちゃんの駆け落ちを報告することだ。


予想通りというか、予想以上というか、お母さんは驚きのあまり息を詰まらせていた。


あたし以上にオロオロして、ひたすら慌てふためいて、すぐに警察に届けようとした。


けど、警察に届けるのは、あたしが止めた。


お姉ちゃんも柿崎さんも、立派に成人している。そのふたりが一日帰って来なかったくらいで、警察がすぐ対応してくれるかどうか。


もしかしたら明日、頭を冷やして帰って来るかもしれないのに、警察沙汰の騒ぎになっていたら、本人たちも色々と気まずいだろう。


そう説明したら、お母さんは渋々納得していた。


そうやってお母さんを落ち着かせて、自分の部屋へ入ったとたん、張り詰めていた気力の糸がプツンと切れたみたいで、ベッドに倒れ込んでしまった。


この家にお姉ちゃんがいない。


いて当然の存在が、いない。


お父さんが亡くなったときのことを思い出して、心臓がズシンと重くなった。


ベッドに横になり、背中を丸めてボンヤリしていたら、不意にスマホが振動した。


ディスプレイを見たあたしの心に、一筋の光が差す。


「も、もしもし?」


『七海か? 俺だよ。そっちの状況は?』


好きな人の声を聞いて、冷たい寂しさで埋まっていたあたしの心が熱くなった。
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