運命みたいに恋してる。
「……愛してる?」


あたしは、聞きたくて聞けなかった言葉をお母さんに聞いてみた。


「お父さんのこと、いまでも愛してる? 結婚できて幸せだった?」


するとお母さんはポッと顔を赤らめ、手で頬を押さえる。


「やだ、この子ったら。そんな恥ずかしいこと言えないわよ」


「いいじゃん。愛は恥ずかしいことじゃないでしょ?」


「……そうね。いまでも愛してるし、結婚できて幸せだったわ。その気持ちはぜんぜん変わらない。そして……」


お母さんはヒザの上にきちんと両手を置き、晴れやかな笑顔で答えてくれた。


「一海と七海のことも、もちろん心から愛してる。ふたりを産めたことは、お母さんの人生最大の誇りで喜びよ」


「……お母さん!」


胸の奥から熱い衝動が大波のように押し寄せて、目に涙が滲んだ。


これまでずっと抱えていた重苦しい不安と罪悪感が、波に洗われるように一気に消滅していく。


あたしはお荷物じゃなかったんだ。


お母さんを不幸にした原因じゃなかったんだ。


本当によかった! うれしくてうれしくて泣きそう! あたしもお母さんのこと、大好きだよ!


「大地。父さんだって拓海と大地を心から愛し……」


熱心に息子に愛を告げようとする父親を、大地は片手を伸ばしてビシッと制止した。


「やめてくれ。恥ずかしいから」


「愛は恥ずかしいことじゃないだろう!」


「気持ち悪いんだって! まったく、これだから熱血シングルファザーは!」


大地はブツブツ文句を言ってるけど、本当はすごくうれしく思ってるんだ。


声の感じとか、雰囲気とかが、さっきまでとは段違いに柔らかくなってるもん。


よかったね。うれしいよね。ホッとしたよね。


こんなことなら怖がってないで、さっさと聞けばよかったな。
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