運命みたいに恋してる。
あたしを助けてくれたのは柿崎さんだよ? お兄さんの方!


「ていうか、あんたもいたの? あの現場に」


大地は『なにをのんきな!』と言わんばかりの勢いで訴えてくる。


「いたもなにも、俺が助けてやったんだろうが! 俺がドブに飛び込んで、お前を引っ張り上げてやったんだよ!」


「はあ!? い、いや、それは違うよ! 柿崎さんがあたしを……」


「あのフットワークの鈍い兄貴に、そんな真似が出来るわけねえだろ。兄貴は泣いてるお前をなぐさめて、家まで背負って行っただけだよ」


すっかり混乱したあたしは言葉に詰まってしまった。


考えてみれば、たしかにあの出来事と柿崎さんのイメージには、だいぶ違和感がある。


えっと、ちょっと冷静になって思い出してみよう。


あのときあたしが見たものは、心配そうにあたしを見下ろす柿崎さんの真っ白なシャツだ。


……そうだ。真っ白だった。


あたしを助けに飛び込んだなら、シャツが真っ白なわけない。


あのときのあたし同様、ヘドロまみれになってるはずじゃない?


そう思った瞬間、まるでスイッチが入ったように、あのときの記憶が鮮明によみがえってきた。


そういえば、柿崎さんに背負われているとき、後ろからベタベタと後をついてきてた物体がいた。


頭っからヘドロに覆われて、まるっきり男か女かも見分けもつかない、あたしと同じ年くらいの背丈、の……。
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