運命みたいに恋してる。
あたしは両目と口をデッカく開いたまま、声も出せずに呆然と立ち尽くしていた。


……どうしよう。目も口もふさがんない。それどころじゃない。どうしよう。


「七海ちゃん? どうかしたの?」


花梨ちゃんの不思議そうな声が聞こえて、ようやく我を取り戻したあたしは、花梨ちゃんのもとへバタバタと駆け寄った。


そして花梨ちゃんの服の襟をギュッと掴み、思い切り上下にグイグイ揺する。


「ちょっと七海ちゃん! 苦しいよ!」


「か、花梨ちゃん。どうしよう、どうしよう、どうしよう……」


「だから、どうしたの⁉︎」


頭をガクンガクン揺らされながら、苦しそうに聞いてくる花梨ちゃんの耳元に、あたしは震える声でささやいた。


「あの人、王子様だ。十年前の、あたしの命の恩人の王子様だ」


「……はあ?」


一瞬の間をおいて、花梨ちゃんが露骨に怪訝そうな表情になった。


無理もない。あたしだって、王子様がこうして目の前に立っているなんて信じられないよ。


でも本当なんだよ。勘違いでも人違いでもない。


決して忘れることのなかったあの顔が、そのまま十年分の成長を遂げて、ここにいるの。


十年間、思い続けていたあたしにはわかるんだ。間違いなく彼は、あたしの王子様だよ!
< 31 / 267 >

この作品をシェア

pagetop