運命みたいに恋してる。
「あたしはこんな体だから、仕事も恋愛も結婚もぜんぶ諦めていたの。奇跡でも起きない限り、あたしにはありえないことだと思ってた」


お姉ちゃんがしみじみと言う『諦め』という言葉は、ずっとお姉ちゃんの口ぐせだった。


自分は迷惑な存在で、これ以上誰かに迷惑をかけたくないから、ぜんぶ諦めるのが一番いいっていつも言っていた。


でもそういえば最近、聞いていない。


「拓海に告白されたとき、まさに奇跡が起きたんだと思ったの。この奇跡を逃したら、もう一生、あたしのことを好きだと言ってくれる男性なんて現れないって思った」


そう言ってお姉ちゃんは、祈るようにグッと両手を組んだ。


いつも弱々しくて、ペットボトルの蓋を開けるのも苦労する細い指が、真っ白になるほど力強く握りしめられている。


「でもね、やっぱりあとで後悔するかもしれないし、傷つくのは怖いから、諦めようかなって弱気になったとき、心の中で聞こえたの。七海の『きっと大丈夫』の声が」


「……!」


あたしは両目を見開いてお姉ちゃんを見た。


お姉ちゃんは、これまで見たことがないようなしっかりした表情で微笑んでいる。


その笑顔はハッとするほど輝いていた。


「あたしをずっと支えて、守り続けてくれた大好きな妹の魔法の言葉が、勇気をくれたの」
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