運命みたいに恋してる。
今、なにか聞こえなかった? 気のせいかな?


―― ジャリ、ジャリ……


やっぱり気のせいじゃない。これ、地面の小石を踏む足音だ。


ということは、物置小屋の向こうから誰かが近づいて来ているの?


誰かな? こんなゴミ箱同然の物置になんの用があるのよ?


あたしは頬の涙を拭きながら、急いで物置小屋の後ろに隠れて息をひそめた。


小屋に用があるんなら、小屋に入るでしょ。こうして裏にいれば気づかれないはずだ。


誰だか知らないけど、用が済んだらさっさと帰ってよね。


あたしはここで思いっきり泣くんだから。


ここで泣いとかなきゃ、家に帰ってからがつらいんだ。


だから早くここから消えろ。ばーか。


そんな八つ当たりの悪態を心の中でつきながら、邪魔者が立ち去るまで待ちきれずに、あたしは両手を顔に押し当てて下を向いた。


両目からポロポロこぼれる涙が、手のひらと頬を濡らす。


あぁ、つらい、なぁ……。


「おい、お前」

「うわ⁉︎」


とつぜんすぐ横から声が聞こえて、驚いたあたしは勢いよく顔を上げた。
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