運命みたいに恋してる。
「じゃあ、柿崎さんを通してお姉ちゃんと知り合ったんだね」


「いや。一海さんと知り合ったのは、実は兄貴よりも俺の方が先。もう一年以上も前に、メイクのセミナーで一緒になったんだ」


「メイクのセミナー?」


一瞬考えて、すぐ思い出した。


そういえば、あった。某有名化粧品メーカーが自社ビルで主催した、メイクの無料セミナーが。


あのころのお姉ちゃんは、とにかく人生のすべてを諦めていたから、オシャレにもまったく関心なし。


どんどん干からびたススキみたいになってきて、心配したあたしが無理やりセミナーにぶち込んだんだった。


……ん? ちょっと待て。


「それって女性向けメイクのセミナーだよね? なんであんたが参加したの?」


「なんでって、セミナー受けたからに決まってるだろ」


「受けた? あんたが? ……メイク好きなの?」


「ああ。大好きだ」


「…………」


凛々しく男らしいイケメン顔を無言で見つめていると、大地君が苦笑いした。


「なんか誤解してるだろ? そうじゃなくて、セミナーを主催したメーカーは、俺の母親が生前に勤めていた会社なんだ」


「え?」


あたしは、さっきとはべつの意味で大地君の顔をジッと見つめた。


『生前』ってことは、その、つまり……。


あたしが言い淀んでいるのを察して、大地君がすぐ答えてくれた。


「うちは母さんがいないんだよ。俺がガキの頃に病気で死んじまったから」
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