おやすみ、先輩。また明日
なんて、こんなことを考えるだけでも、ヤンキー先輩の彼女にとっては不快以外のなんでもないんだろうけれど。
恋敵の気持ちを考えられるほど、わたしはお人よしでもバカでもない。
それなりに自分勝手で、自己中心的で、嫌な女だ。
そう思いきった方がすっきりする。
すっきりした気持ちでヤンキー先輩のことを好きでいられるって気付いた。
自分に自分を良く見せようとしたって意味ない。
「ふーん。なかなか強かになってきたじゃない」
宇佐美先輩の爪が丁寧に切りそろえられた綺麗な手が、わたしの髪をくしゃり撫でてきた。
ヤンキー先輩が犬を相手にやるみたいな、あったかいあれとは違う。
でもとても、びっくりするくらい優しい手だった。
「ねぇ杏ちゃん。俺はね、こう見えて好き嫌いが激しいんだよ」
「こう見えてって……意外でもなんでもないんじゃ」
食べ物の好き嫌いも多そうだし、異性の好みの範囲なんて針の穴より狭そう。
もちろんわたしは針の穴の外。
圏外の中でも更に外側ってとこだろうな。