おやすみ、先輩。また明日
「杏さん。お会いできて光栄です。お母様にもご足労いただきまして、ありがとうございます」
きっちりと頭を下げて、そして爽やかに微笑む梶原さんに怪しい点はない。
いや、ちょっとかっこよすぎて、逆にこんな人が本当に編集者さんなのかと疑いたくなる。
俳優とかモデルって言われた方が驚かないや。
向かい合わせに座って、飲み物を頼む。
まず口を開いたのはお母さんだった。
「あのう。いまいちわたしよくわかっていないんですが。娘の本を出すというのは本当なんでしょうか?」
「ええ、もちろん。杏さんがブログで書かれているスイーツレシピを本にして、ぜひ弊社から出版させていただきたいのです」
「で、でも。娘は普通の学生で、ただお菓子作りが趣味だってだけなんですよ? 製菓学校に通っているわけでもないのに」
「いえいえ。杏さんのレシピは編集部の女性陣にも人気なんです。実際社員が作って会社に持ってきたのですが、大好評で」
「え。そ、そうなんですか?」