おやすみ、先輩。また明日
神林先生は、いつもの優しい笑顔でわたしの頭をなでてくれた。
「よかったね、桜沢さん」
「……はい」
「確か桜沢さんはパティシエになりたいんでったよね? 卒業後も製菓の道に行くんでしょう?」
「その予定です」
「じゃあそのレシピ本が、パティシエとしての最初の仕事になるね」
穏やかな神林先生の声が、すとんとわたしの心に落ちてくる。
そんな風に言ってもらえるとは思ってなくて。
熱いものがこみあげてきた。
「何泣いてんの桜沢! ここは笑うとこでしょーが」
「だって~」
「あはは。うれし泣きってやつだよね。おめでとう、桜沢さん」
おめでとう、なんて。
そんな素敵な言葉がもらえるなんて、本当に考えてなかった。
一緒に梶原さんと会ったお母さんだって言ってくれなかったし、
片想いの本だから発売になったって友だちにもなかなか言えないだろうから。